宇宙刑事ダミバー


 その日の前日、青い星が一つ流れた。

「見えた!あの洞穴だな」
 少年は歓喜の声を上げると、山の上にある洞穴目指して走り出した。なぜ、彼が歓喜の声を上げたのかというと……
「町を出てはや一週間。ついに盗賊達のアジトを見つけたぞ!
 これでまともな生活に戻れる。思えば今までいいことなんて全然なかった。
 十六歳になって、憧れの騎士団に入隊したのも束の間のこと。国の財政難から、実績のない軍隊。つまりうちの軍隊が解体され、路頭に迷うこと一カ月。傭兵として雇ってもらおうにも、経験が物をいうこの職業。騎士をやってたくらいじゃ、雇ってくれる所なんかありゃしない。
 そこで考えついたのが盗賊退治。この不況の中、盗賊団など星の数ほど存在している。その中の一つでも、しかもたった一人で退治すれば俺の名前、つまりカズナ・ハロウズの名前が町中に広まるはずだ。そうすれば俺を雇おうなんて人間は腐るほど現れる。それどころか再び騎士団に戻れるかもしれない。
 そして俺は今、一週間の探索の末、ついに盗賊達のアジトを発見した。後はあのアジトに乗り込めば全ては解決、バラ色の生活……生活が……待って……い……る……」
 そこまで言うと力尽きたのか、彼はばったり倒れてしまった。
 別に不思議なことではない。鉄の鎧を全身に纏って、急な坂道を、息を整えるどころかしゃべりながら走っていたのだ。
 普通の人間なら力尽きて当然である。まあ普通の人間なら、それくらいの理屈は分かりそうなものだが……
 普通の人間でありながら、普通の人間の理屈を持っていない少年。名前は……そういえば、彼は走りながら自己紹介をしていたな。一応カズナ・ハロウズと、こちらからも紹介しておこう。
 自分の置かれた状況や、洞穴に向かって走っていた理由は……これもカズナが走りながら話していたので、もうこれ以上説明することはない。つまりそういうことなのだ。
 とは言えカズナは已然倒れたまま。しばらく起き上がりそうもないし、このままでは話が進まないのだが……
「よし!休憩終わり!」
 カズナはガバッと起き上がると。何事もなかったように山路を歩き出した。「……やっぱり、鎧を着て走るのは良くないな。これからは歩いて行こう」
 ……前言を撤回する。彼は普通の人間ではない少年のようである。

「何だ?あいつらは……」
 カズナは顔をしかめる。それもその筈。こんな山奥で、五・六人の男が輪を作って、何か話をしているのだ。はっきり言って、怪しいの一言で片づけてしまえる位に怪しい。
「こら!お前達何やってんだ!」
 カズナは大声で怒鳴りつける。すると男達は、一斉にカズナの方に首を向けた。
 突然の鉄鎧の登場に、男達は驚きの顔を見せる。しかし、相手がたった一人だということを確認すると、強気な態度に出た。
「お前こそ何者だ?」
 リーダー格らしき男が前に出る。「ここは俺達の縄張りだぞ。それなりの覚悟はできてるんだろうな」
「縄張り?てことは、お前達は盗賊だな!」
「何をふざけたことを、こんな山奥に俺達盗賊以外の人間がいるわけねえだろう!」
「なるほど、言われてみればその通り。つまり、この山の人間は全員盗賊なんだな?」
「そういうことだ」
「それなら話は早い。早速、盗賊退治を始めさせてもらおう」
「盗賊退治?俺達を退治しに来たのか?」
「そうだ」
「一人でか?」
「その通り」
「こいつはきつい冗談だぜ。ここには全部で三十人近い人間がいるんだぜ。それを一人で退治しようとは……」
「やってみないと分からないだろう」
「やってやるよ。お前一人、俺達だけで十分だ。身ぐるみ剥いでやるから覚悟しろよ」
 男が言うと、周りの男達は腰に携えてた剣を抜き放つ。
「野郎どもかかれ!」
 男の合図とともに、男達は一斉にカズナに襲いかかってきた。
「ふむ。いち、に、さん……全部で六人か。楽勝だな」
 カズナはそうつぶやくと、背中に背負っていた細身の槍を握る。
「まずは一人目」
 そう言うとカズナは槍を投げ放った。槍は一番先頭にいた男の腹に刺さると、男をそのまま仰向けに倒す。
 続いて腰に携えた剣を抜き放ち、盗賊達目掛けて突っ込んで行く。仲間が倒れたことにより、浮き足だった盗賊達は、カズナの思いがけないダッシュに呆然とする。呆然とした顔のまま二人の盗賊が、カズナに致命傷を負わせられた。
 さすがに四人目はカズナの剣を止めることができた。しかし、カズナは剣を振るのを止めない。まるで何かの機械のように何度も何度も盗賊の剣に振り下ろした。数回金属音が響いた後、手をしびらせて剣を落とした盗賊の頭に、カズナの一撃が決まる。
「よし、あと二人」
 カズナが辺りを見ると、そばで腰を抜かしている男一人のみ。
「あれ?あと一人は?」
「あ……あそこ……」
 男が腰を抜かしたまま逃げていく男を指さした。どうやら最初の一人がやられた時点で逃げ出したようである。
「俺から逃げようとは甘いな」
 と言うと、カズナは倒した男に刺さっている細身の槍を引き抜くと、それを思いっきり投げつけた。槍は矢のような速度で飛んで行くと、やがて逃げた男に突き刺さる。
「これで五人目と。御協力感謝する」
「そ、それはどうも……」
「では六人目と」
 カズナは剣を振り上げた。
「ちょ、ちょっと待って下さいよ!」
「どうした?」
「協力したじゃないですか!命ばかりは助けて下さいよ」
「そんなこと言ったって、お前は盗賊だろ?盗賊を生かしとく訳には……」
「あ、足洗います!もう盗賊やめて堅気の生活に戻りますから!」
「信じられんな」
「信用して下さいよ!」
「盗賊の言うことなんか信用できるか!」
 カズナはそう言うと、六人目の盗賊にとどめを刺したのであった。

「さっき、盗賊が見ていたのはこれか」
 カズナは好奇心に満ちた目で、目の前で寝ている男を見た。
 男は年齢、二十代の前半辺り。掘りの浅いのっぺり顔をしている。しかし、単なる男が珍しい訳がない。盗賊達の、そしてカズナの目を引いたのは男の服装にあった。
「何だ?このダブダブした銀色ツナギは?それに、頭に被ってる透明な丸つぼといい……こんな格好してる奴は見たことがない。もしかしてこいつ、異国の人間か?」
「う……うん……」
 男は呻き声を上げると目を開けた。
「お、気がついたな。俺の言葉分かるか?いや、それよりも話せるか?」
「あ、ああ……あんたは?」
「俺はカズナ・ハロウズ。この国の騎士……騎士だった男だ。決して怪しい者じゃない」
 カズナは言い切る。「で、お前は?」
「俺?」
「お前の名前を訊いている」
「俺は……」
「どうした?」
「その……本名は明かせないんだ。とりあえずサトルとでも呼んでくれ」
「サトル?異国風な名前だな」
「仮の名前だから気にするな」
「まあいい。それでなんで、こんな所で寝てたんだ?それにその服……」
「寝てたんじゃなくて、気絶してたんだ。ちょっと着地に失敗して……」
「着地?」
「そう着地。全く中古の宇宙船は……」
「ウチュウセン?なんだそりゃ?」
「なんだと言われても……」
「それよりその服……」
「これ?単なる宇宙服だが……」
「また、訳の分からんことを。ちゃんと分かるように説明しろ」
「説明しろと言われても……」
 そこまで言うと、サトルは突然顔をハッとさせる。そして、慌てて腕につけていた金属帯の一部を開いた。「本部!本部、応答願います。……はい。無事地球に到着しました。ええっと、それでですね。早速で悪いのですが、この星の文化レベルをですね……」
「さっきから何一人で話してるんだ?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。すぐ終わる。何だって?レベル3?ほとんど原子人じゃないか!どうりで宇宙船を知らないわけだ。分かってます。これから行動に入ります。報告は後ほどということで……」
 サトルは金属帯を閉める。「さて、どうやって説明すれば分かってくれるかな」
「分かるように説明できるか?」
「あんまり自信が無いが」
「じゃあ説明しなくていい。どうも、この国とサトルの国とは習慣が違うらしい。異国の文化の違いは、言葉で言い表わせないことまである。それを説明したところで、どうせ俺には分からないことだ」
「まあ、そう言ってくれると、こっちもありがたいんだが」
「そのかわり一つだけ質問する。いいか?」
「いいよ。何でも訊いてくれ」
「お前は盗賊か?」
「盗賊?いや、俺は盗賊じゃないぜ」
「そうか。それは良かった」
「なにが良かったんだ?」
「お前を殺さずに済んだからだ」

「なるほど。盗賊退治をねえ」
「今の時代、悪い奴がゴロゴロいるからな。そいつらを倒して経験と実績を積んでいけば食うには困らない生活ができるんだ」
「食べていく為の盗賊退治という訳だな」
「簡単に言えばそういうことだ……ところでさっきから何をやってるんだ?」
「ちょっと、捜し物をな」
 そう言いながらサトルは、金属帯を開いて何かを打ち込んでいる。
「捜し物?こんな所で座っていて見つかるものなのか?」
「ああ、それには特殊な発信器が付いてるから、小型レーダーでも……理解できるか?」
「できないな」
「だろうな……おっ!見つけたぞ……意外と近くだ」
「どこだ?」
「ちょっと待て。えっと……ここから南に五百……ちょうどあの洞穴の奥って所だな」
 そう言うとサトルは、その洞穴を指さす。
「あそこ?あそこは盗賊のアジトだぞ。あそこにサトルの捜している物があるのか?」
「まず間違いないだろう」
「なるほど。盗賊のアジトに異国人の宝物。格好の舞台だ」
「いや、別に宝物という訳では……」
「でも重要な物なんだろう?」
「まあ、確かに重要だが」
「よし、サトルはここで待っていろ。俺が、今からあそこに乗り込んでいって、取り返してきてやる」
「それはできない。俺も同行させてもらう」
「なんだと?もしかして、俺がお前の宝を横取りするかも知れないなんて、心配してるんじゃ無いだろうな?」
「そんな心配、最初からしてないさ。ただ、これは俺に与えられた任務なんだ。俺の任務を他の奴にやらせる訳にはいかない。お前は最初の目的である盗賊退治をしていればいいさ。互いに干渉無しだ」
「分かった。しかしその前に、それをどうにかしてくれ?」
「それ?ああ、宇宙服のことか。そうだな、このままじゃ動きづらいか」
 そう言うと、サトルは金属帯のボタンの一つを押す。すると、彼の周りに白い煙が噴き出し彼を包み込んだ。しばらくして……
「これでいいか?」
 サトルは軽快な服に身を変えていたのだった。

「なるほど……さすが一人で盗賊のアジトをつぶそうと考えるだけのことはある」
 つぶやいたサトルの周りには、いくつもの盗賊の死体が転がっていた。
 ちなみにサトルは、今のところ何もしていない。つまりこれは、全部カズナがやったのである。
「はち、きゅう、じゅうと、全部で十人か。さっきの戦闘を合わせて全部で十六人。あと大体半分だな」
「つまり半分が、洞穴の中という訳か?」
「そういうことだ。これだけ派手な戦闘をして出てこないということは、どうやら籠城戦に作戦を変えたようだな」
「行くのか?たぶん罠が張ってあるぞ」
「罠だろうが何だろうが関係ない。俺は早くこいつらを全滅させて町に帰りたいんだ。のんびり相手をする気は毛頭無い」
「無謀だが、カズナの言うことは否定できないな。俺も早く任務を終了させたいし」
「それじゃ決まりだ。松明に火をつけるぞ」
「ああ」
「それじゃサトル。これを持って、ついてきてくれ。これなら俺も存分に戦えるからな」
「了解」
「よし!洞穴に突っ込むぞ!」
「おう!」
 かけ声を合図に二人は洞穴に駆け込む。洞穴に入って十メートル。外の明かりが届いているうちに盗賊達の反撃が始まった。前方から矢の嵐が襲いかかってきたのである。
「このまま突っ込む!身をかがめて俺を盾にしろ!」
 カズナが叫ぶと、サトルは素直にそれに従う。矢は容赦なくカズナの体に当たっていった。しかし、元は騎士の鎧。盗賊が自主作成した張りの弱い弓では到底貫くことはできなかった。カズナは矢の勢いに押されることなく、弓をつがえていた盗賊達の所へ距離をつめると、剣を抜き放った。
 目の前にいるのは二人。カズナは勢いに任せて二人を切り倒した。
「おかしいな」
 サトルは不満気につぶやく。「あの矢の嵐は、たった二人でできる物じゃない」
 しかし手遅れだった。二人の周りには八人の弓矢を持った盗賊が囲んでいたのである。
「ようこそ、我がアジトへ」
 声が響くと、次々と明かりが灯され、奥からボスらしき男が現れた。「歓迎したいところだが、我々に剣を向けた以上そうも行くまい。早速だが死んでもらう。やれ!」
 男が合図をすると、盗賊達は一斉に矢を放った。周りを囲まれている以上、二人に逃げ場はない。
 次の瞬間、派手な金属音が響き渡った。矢がカズナの鉄鎧に当たった音だ。そしてそのすぐ側には、針ネズミのようになったサトルの姿が……無い!
「上だ!」
 盗賊の一人が叫ぶ。慌てて他の盗賊達も見上げようとする。しかし遅かった。サトルは天井を蹴って方向を変えると、すでに盗賊達の後ろに周り込んでいる。
「まあ、正当防衛だから、許してくれよ」
 サトルはそうつぶやいて、盗賊が腰に携えていた剣を抜き取る。そして人間離れした速さで、その盗賊と隣にいた二人の盗賊に致命傷を与えた。
「くそ!残りは一人だ。やっちまえ!」
 残った盗賊達は慌てて腰に携えた剣を抜くと、サトルに襲いかかった。だが、五対一という不利な条件の中でも、サトルは臆することもなく軽く剣をよけていく。
「フッ……素人同然だな」
 サトルは軽く笑うと、大振りして隙ができた盗賊の一人に必殺の一撃を与えた。
「さて、お次は……」
 サトルが次の盗賊に体を向けた瞬間、突然その盗賊がサトルに向かって倒れてきた。
「おっと」
 サトルは素早く避けると、盗賊の背中に刺さった細身の槍を引き抜いた。「なんだ。生きてたのかカズナ」
「当たり前だ。これくらいの矢で死んでて、騎士なんかやってられるか!」
「これ位といっても、結構刺さってるぞ」
「実際、体に刺さったのは三本だ。それに深く刺さった矢は無い」
「まあ、生きているなら契約は有効だな。干渉はしないから。あとの盗賊は任せたぜ」
「任された。さあこい、盗賊ども!今すぐ仲間達の所へ送ってやるぜ!」
 カズナはそう言うと、浮き足だった残りの盗賊達に剣を振りかざしたのであった。

「後はお前一人か?悪の親玉」
 カズナが不適な笑みでボスに言った。
「くっ!まだ負けた訳じゃないぞ。こっちにはまだ切り札が残っているんだ」
「だったら、それをさっさと出すんだな。切り札を倒して、お前も倒してやる」
「フン!そうやって息巻いてられるのもここまでだ。先生!出番ですぜ!」
 ボスが叫ぶと、奥のドアが開く。そして中から、先生と呼ばれた男が姿を現した。
「で……でかい」
 カズナは思わず言葉を漏らす。それもその筈、その男の身長はどう小さく見ても、身の丈三メートル以上。巨大熊が人間の皮を被ったように見える。
「少しは骨のある奴が現れたようだな」
 大男はカズナを見るとニヤリと笑う。
「そ、そうなんです。こいつらめっぽう強くて、ぜひ先生の力を……」
 ボスが急に腰の低い態度に出る。しかし、大男はそれを無視すると腰に携えた大剣を抜き放った。
「かかってきな。軽く相手をしてやる」
「それはこっちのセリフだ。体が大きかっただけなんて、期待外れさせんなよ!」
 カズナは持っていた剣を前に構えると、大男に突っ込んでいった。
 カズナが大男目掛けて剣を振り下ろす。大男はそれを軽く受けとめると、カズナの体ごと剣を投げ飛ばした。
「うわあー!」
 派手な声を上げて、カズナは地面に叩き付けられる。「くそ……なんて馬鹿力だ」
「大丈夫か?」
 サトルが慌ててカズナに近づいてきた。
「大丈夫だ。まだまだやれる。なーに、あんな力だけの大男。敵じゃないぜ」
「それはどうかな。俺が見たところでは、お前があいつの敵じゃないな」
「なんだと?俺じゃ役不足だってのか?」
「そういうことだ」
「そんなの、やってみなきゃ分からないぜ。俺がちょっと本気を出せば……」
「そしたら、あいつも本気を出す。どっちにしろお前には無理だ」
「うるせえ!盗賊退治は俺の仕事だ。お互いのすることに干渉しない約束だぞ!お前は勝手に目的の物を捜してればいいんだ。口出しするんじゃねえ!」
「全くその通りだ」
「へっ?」
「目的の物を捜し当てたんだよ。ここからは俺の仕事だ。お前は下がってな」
「ちょ、ちょっと待て。目的の物って……」
「男二人が何の相談だ?安心しろ、棺桶ぐらいは用意してやるぜ」
 大男がニヤニヤした顔で二人に近づいてくる。するとサトルは、カズナを後ろに下がらせ、懐から一枚の金属版を取り出した。次の瞬間、大男の顔が驚きの表情へと豹変する。
「そ、その黒いプレートは!ま、まさか貴様……銀河警察か?」
「犯人コードFC082、宙賊デルス。数度に渡る貨物船の強奪などの、宙賊行為により貴様に死罪状が出されている。もはや生きる望みは無いと思え!」
 サトルは余裕の笑みを見せる。「棺桶を用意するのは、そっちのようだな」
「くそう!こんな辺境の星にまで追いかけてくるとは……」
「銀河警察の情報網を甘く見てもらっては困るな。例え辺境の星に逃げようと、悪の隠れる場所はない!」
「だ、だが、銀河警察とは言え、俺が本気を出せばお前一人くらいどうってことはない。お前を殺して逃げ切ってやる」
「ほう。俺を殺すだと?やれるもんならやってみるがいい」
「あまり俺を甘く見るなよ」
 大男……いや、宙賊デルスはそう言うと、突然口が胸の辺りまで裂ける。次の瞬間、口の中から青緑の皮膚を持ったトカゲの顔がヌッと飛び出してきた。それと同時に腹から二本の腕が飛びだし、それが左右に広がりながら人間だった皮膚を引き裂いて行く。
 変態が終わり、乱暴に肌色の皮膚を脱ぎ捨てたデルスは、四本の腕を持ったトカゲ男へと姿を変えたのであった。
「あ……あわわ……」
 盗賊のボスは大男の突然の変態に腰を抜かしたのか、その場に座り込んでしまった。デルスはまるで感情の無い目でボスを睨むと、片手でボスの頭をつかむ。そして……
 ブシュ!
 無気味な音とともに、ボスの頭が熟したトマトのようにつぶされる。頭を無くしたボスの体は、そのまま地面に倒れた。
「仲間を殺すとは……」
 サトルが表情を変えずに言う。
「仲間とはいえ、俺の正体を知った奴を生かしておく気はない。次はお前達の番だ」
 デルスは四本の腕で一本の大剣を握ると、サトルに突っ込んできた。
「死ね!」
 デルスが剣を振り下ろす。しかし、サトルはそれを余裕でかわすと、勢いをつけてデルスと距離をとった。
「どうした?銀河警察ともあろうものが逃げに入るのか?」
「慌てるな。ちゃんと相手してやる」
 サトルは金属帯を開ける。「装着!」
 そう叫んだ瞬間、サトルの体が光に包まれた。しかし、それも一瞬のこと。光が消えると、全身鎧が姿を現した。
「銀河警察捜査一課。宇宙刑事ダミバー!」
「何?機装鎧だと……」
「悪いが早めに決着をつけさせてもらう」
「や、やれるもんならやってみやがれ!」
 デルスはほとんどやけくそ気味で、ダミバーに突っ込んできた。しかし、それに慌てるダミバーではない。
「ダミバーブレード!」
 ダミバーはそう叫ぶと、腕から剣の柄を取り出し、青白い光の刃を生み出した。
 デルスの剣が振り下ろされる。それをダミバーはダミバーブレードで軽く受けとめ、更に腕力だけでデルスの体ごと吹き飛ばした。
「ぐわっ!」
 壁に叩き付けられ悲鳴を上げるデルス。続いてダミバーは、ダミバーブレードを頭上に掲げた。次の瞬間、ダミバーブレードの青白い光がダミバーを包み込む。
「必殺ダミバークラッシュ!」
 ダミバーの体は光の玉となり、矢のような速さでデルスに体当たりした。
「ぐわあぁぁ!」
 デルスが断末魔を上げた瞬間、光は大爆発へと変わったのであった。

「フン、まるで手応え無かったな」
 変身を解いたサトルは黒焦げになったデルスを見下ろした。「まあ、落ち延びた宙賊ふぜいじゃこんなものか。さて、任務も完了したしと……あれ、カズナ?何やってんだ」
 カズナは地面に腰を下ろしたまま、じっとしていた。
「俺の仕事をそんな所で座って見てたとは、大した余裕だな」
「ば、馬鹿野郎!そんなんじゃない!」
「じゃあ何なんだ?」
「それは……その……」
「なんだ?」
「あ、あまりのお前の激しい戦いにだな」
「俺の戦い?見とれてたのか?」
「違う!……腰を……腰を抜かしたんだよ」
 カズナは兜の奥で、顔を真赤にさせていたのであった。

「はあ……」
 サトルは小さくため息をついた。
 任務を完了させてから一カ月が過ぎた。しかしサトルは、まだ地球にいたのである。それはなぜかと言うと……
「よう、サトル」
 その声に、サトルは振り向く。
「なんだ、カズナか」
「おう。俺だ。どうだ調子は」
「うーん、あまり良くないな。とりあえず、この星の重力圏さえ抜けられれば、何とかなると思うんだが……」
 サトルは、またため息をつく。
「どうしたんだ?」
「いや、ちょっと自分が情けなくてな。いくら自分が壊したとはいえ、宇宙刑事とあろうものが山奥で宇宙船修理とは……」
「まあ、そう言うな。それが直らないと帰れないんだろう?」
「それはそうなんだが……ところでカズナ。お前の方はどうなんだ?」
「どうって?」
「憧れの騎士団に再入隊できたんだろ?」
「ああ、まあ一応は……」
「よかったな。これで食いっぱぐれも無い訳だし、万々歳だ。それで相談なんだが……」
「何だ?」
「宇宙船の修理に使う資材を、軍から少し分けてくれないか?町中だとあまり質の良いのが手に入らないんだ」
「悪いが、それは無理だ」
「ちょっとだけだ。大した量じゃない」
「無理なものは無理だ」
「何故だ。軍の人間なら出来ないことはないと、町の人に聞いたんだぞ」
「そりゃあ出来る。軍の人間ならな」
「じゃあ、どうして?」
「実は……先程、騎士団をやめてきたんだ」
「へっ?」
「もはや軍の人間で無い以上、俺が軍の資材をまわすことは不可能だ。諦めろ」
「騎士団をやめたって……お前、騎士団に憧れてたんじゃ無かったのか?」
「憧れてた。しかし、それ以上に憧れるものが出来たんだ」
「それ以上に?何だそりゃ?」
「お前だ」
「お、俺?」
「そうだ。なにやら訳が分からんが、お前のやってる仕事がかっこよく感じたんだ」
「かっこよく感じたって……お前な」
「とにかく。俺もあんな鎧を着たいんだ。頼む。俺も仲間に入れてくれ」
「仲間って言ったって、そう簡単に銀河警察に入れる訳が……」
「俺を弟子にしてくれ。そして、その銀河警察とやらに入れるように、特訓してくれ」
「し、しかしだな……」
「大丈夫。体力にはだいぶ自身がある」
「いや、体力だけじゃなくって……」
「知力か?努力はするぞ」
「そうじゃなくって、文化レベルにも大きな違いがあるし……」
「順応性はあるほうだ。なーに異国の文化ぐらい、すぐに慣れる」
「異国じゃない。異星!」
「イセイ?安心しろ。威勢はあるぞ」
「だーかーらー」
 サトルは、なるべく分かりやすく説得しているつもりである。しかしカズナは、そのほとんどを理解できないのだ。
 果たしてサトルは、カズナを説得することが出来るのだろうか?それとも、サトルが折れて、カズナを弟子にしてしまうのか?
 どちらの主張が打ち勝つのか?まあ、それはまた次回の話とすることにしよう。

(宇宙刑事ダミバー・終わり)










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